「いらっしゃいませ。本日はどのような商品をお求めでしょうか?」

―その声は、保険という大海原に標を与える羅針盤に似て。

■アイドレスデータ

L:保険市場 = {
 t:名称 = 保険市場(施設)
 t:要点 = 保険,人々,引き受け人
 t:周辺環境 = 市場
 t:評価 = 住みやすさ0
 t:特殊 = {
  *保険市場の施設カテゴリ = ,,,国家施設。
  *保険市場の位置づけ = ,,,{建築物,経済施設,金融機関,一般施設}。
  *保険市場の設置 = 設置された国。
  *保険市場の面積 = ,,,800m2。
  *保険市場の構造 = ,,,1階建て。
  *保険市場の資金収入 = ,,条件発動,(生産フェイズごとに)資金+20億
  *保険市場の損失補填効果 = ,,,損害が出たときの資金被害を25%にする
 }
 t:→次のアイドレス = 保険のおばちゃん(職業),未来予想(イベント),保険による保障(イベント),大規模保険会社(イベント)






「ジェラ保険会社のベリーニと申します。
本日はお時間を頂き、ありがとうございます



 会釈をするその紳士は、とても“噂の人”とは思えない。
 第一印象は、まずもって、それだった。

「いえ、こちらこそご足労頂きまして」
「それは違いますよ。単に人と会うのが好きなだけです」

 唇が緩やかに、優しく弧を描く。
 それが彼の微笑みだと気づき、その指先に、名刺のケースを見つけた私は、慌てて自分の名刺も取り出した。
 差し出される小さな名乗り。落ち着いた紺の色で書かれたその名はこの街で一番の“安全”と同じ意味を持っている。




/*/


 今回の目的は、社員に斡旋する為の保険商品、その選定である。
 会社の福利厚生担当としては、中々に頭の痛い問題だ。

「となると、どちらかと考えると、旅行など遠出をされる方が多いのでしょうか」
「はい、そうなります」

 私が頷くと、ベリーニ氏も一つ二つ頷いて、手元の手帳に何か書きつけていた。
 ふむ、と唸ると、机に広げられた資料を選り分け始める。
 文字がぶれるのか、老眼鏡の位置を右手で直しつつ。
 迷いの無い手つきを見るに、流石“噂の人”だと思った。
 ――かつて、個人向け保険商品の販売に、初めて成功した、そして彼の販売実績は未だに誰も勝てていない――という、かの有名人だ。
 今回の選定は、成功しそうだ。最初にジェラ側の担当を聞いた時には、腰が抜けた。これはいける。
 心中で頷く。

 ――会社の医療制度も、勿論あるが。
 より細かな対応を自社で行う事は、知識と手間、人と金が要る。
 餅は餅屋、保険は保険会社。
 結局のところ、分業こそが大事なのだ。委託とも言う。

「現状、社の福利厚生として行っている面がここまでになりますから――」

 差し出される書類。

「外の部分をカバーできる事、特に長期保障の……ここです。ここをカバーする物が」
「ええ。良く分かります」

 ざっと目を通す。
 前もって大体の希望は伝えていたとはいえ、これは。

「新しいタイプのですか?」
「はい。いくつか考えて参りましたが、個人的にはこれをお薦め致します」

 擬音が聞こえてきそうな笑みを浮かべられると、どうにも私の方が緊張する。
 もう一度書類に目を通すが、考えていた必須条件はクリアしていた。
 むしろ、予想外に好条件とも言える。
 さらさらと分かりやすい説明を一通り。
 聞き終わってから、頷き。意を決して質問をする事にした。

「ベリーニ氏」
「はい。どこかご不明な点がありますでしょうか」
「ええ。今回の契約ですと、御社の得られる手数料の半分は、美術振興の支援に使用するとありますが。かといって手数料が高い訳でも無い」
「そうですね。ギリギリのラインでプランニングさせて頂きました」
「…それはまた」

 私を見て、彼は子どもを見るような優しさで、言った。

「確かに企業である以上、営利を求めているのは否定しません

 ですが、と
ベリーニ氏は続ける。

「それだけでは我々も納得がいかない。それ以上に、国全体、世界全体と成長していきたいと考えていますよ」
「…ええ」


/*/


 薦められた商品を仮押さえし、資料を貰う。
 後は課内の会議次第だが、恐らくこの商品で決まるだろう。
 添えられた他のプランも、中々に捨てがたいものばかり。これを我が社の為だけに作ったというのも、凄い話だ。
 ――あれがコンサルタント。
 勉強になったでしょう、と上司に言われ、何度も首肯したのは言うまでもない。




■製作スタッフ
・Illustration:GT、セタ・ロスティフンケ・フシミ
・Text:吾妻 勲、サカキ
・Edit:セタ・ロスティフンケ・フシミ
・Special THX: 全星鋼京国民